象がふんでもこわれない(アーム筆入)
象がふんでもこわれない筆入れ
「象がふんでもこわれない」というフレーズを聞いたことがありませんか?
お若い方は「何のこと?」と疑問形になると思いますが、それでもTVなどでこのフレーズがたまに使われる事がありますので、聞いたことがある人も多い事でしょう。
そして、
「象が踏んでも壊れない」ではなくて「象がふんでもこわれない」が正しいキャッチコピーのようです。
これは「象がふんでもこわれない」ほどの強度を持った筆入れのことで、サンスター文具から「アーム筆入」という商品名で1965年(昭和40年)に発売開始され、1967年からTV-CMを開始したそうです。
TV-CMでは実際に象に踏ませて壊れないということを実証する映像が流されました。
これはかなり衝撃的でしたね。
1965年という年は、前年に東京オリンピック、東海道新幹線開通などのビッグイベントが立て続けにあり、5年後の1970年には大阪で万国博覧会がありましたのでまさに当時の日本は高度経済成長真っ盛り、庶民向け商品もイケイケ状態だったのでしょう。
アームとは腕の事ですが、プロレスラーの腕組を表したということだそうで、それほど強靭ということを表したかったのでしょう。
「筆入れ」は一般的な日本語として使われる送り仮名付き表記ですが、本製品の正式名称は「アーム筆入」と「れ」が付かないようです。
56年経っても売り続けられているアーム筆入
本記事を書いている2021年から逆算すると1965年は56年前ですが、この間ずっと売り続けられているのです。
文房具ですから他にも長期間売り続けられている商品はいくらでもあるかと思います。
しかしアーム筆入ほどインパクトの強いキャッチフレーズで売り続けられるものはそうないはずです。
文房具は幼児~大人に至るまであらゆる世代に必要とされ、かつ見た目の秀逸さよりも機能性が求められるものが多い分野です。
しかもデジタル時代になってもこの需要は変わらず、逆に進化しているほどです。
これほど長い間売り続けられているアーム筆入は機能性はもちろん、やはり「象がふんでもこわれない」というインパクトがあまりにも強すぎるからだと思います。
他の文房具はインパクトの強いキャッチフレーズなんて殆ど聞いたことがありません。
このアーム筆入を紹介しているサンスター文具様のサイトをぜひご覧下さい。
現行品の紹介もありますし、初代製品のTV-CMの動画、共に歩んで来た時代を代表する製品やCMの動画もあります。
今のアーム筆入は基本形は初代製品を継承していると思いますが、現代的により機能的に改良されていますね。これは時代の流れで当然でしょう。
誰でも持っていたアーム筆入
私はアーム筆入の初代製品にどんぴしゃの世代なのですが、当然持っていましたし、クラスメートの過半数が持っていたと思います。
これは全国的ブームだったのです。
やはり「象がふんでもこわれない」のTV-CMの影響が強かったのでしょう。
発売時の価格や当時の平均収入に対する比などは分かりませんが、当時は高度経済成長と言えども東京23区内でも貧富の差が割とある時代でした。
でも多くの子どもが持っていたというのは親が無理して買ったという事ではなくて、庶民でも買えた値段だったのでしょうね。
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私が持っていた製品は半透明のグリーンでした。
他に何色があったかは覚えていませんが女子も持っていたのでカラーバリエーションは割とあったのかな?と思います。徐々に色が追加されたのかもしれませんが。
でも私の同級生に限って言えば、ずーっとアーム筆入を買い続ける人はあまりいなかった気がします。
アーム筆入の次は当時流行りだしたビニール張り多機能の筆入れに買い替えて、今まで使っていたアーム筆入は家で使うという子どもが多かったと思います。
このビニール張り多機能というのは現在主流になっている筆入れの源流と言って良いのではと思う製品です。
男女向け問わず表面には様々な模様が描かれ、蓋はマグネット式、中は鉛筆の収納スペースが2段に分かれていたり、消しゴム収納スペースがあったりと大変機能的になりました。
中もビニール張りですが、表面の部分は薄いスポンジでも挟んでいるのかふっくらとした触り心地でした。
一度このような多機能タイプに変えるとその後アーム筆入に戻る人はあまりいなかったと思います。つまり子どもにとっては極端な強度は必要なく、しかも当時のアーム筆入は本当に単純な「筆箱」に過ぎなかったからです。
アーム筆入はなぜ丈夫なのか?
それはポリカーボネートという素材を使っているからです。
機構、素材関連の勉強をされた方はお分かりと思いますが、ポリカーボネートという素材は単純なプラスティックとも言えますが、一般的なプラスティック類の中では破格の強度を誇ります。
(私は機構、機械出身ではなく専門は電子工学ですが、仕事上機構設計の方といつもペアでしたので、素材の事などもお教え頂いていました。)
とんでもなく頑丈な素材です。
身近な多くの物に使われていますが、プラスティック製のスコップ(シャベル)などは間違いなくポリカーボネートです。
今私は札幌市に住んでいますが、雪国に欠かせないものとして除雪用のスコップがあります。
粉雪を除去出来れば良い、という単純な事ではなくて雪も固まると岩のように固い氷になります。
そのような氷をスコップを少しづつ打ち付けて崩して運ぶのです。
ですから打ち付ける先端部分は硬く、もろくない素材でないといけません。
人間が手で持って行う作業ですので同時に軽くなければいけません。
だからポリカーボネートを使うのです。
今も使っている除雪用スコップは購入後10年経ちますが、相当過酷に使って来ましたが先端に割れやヒビもなくその強度に改めて驚く程です。
だからアーム筆入は強いのです。
アーム筆入の強度には以下のような話があったようです。
Wikipediaからの引用ですが、国会議員が話題にするほど社会現象になっていたと言えるのではないでしょうか?
販売当初から良好な売れ行きを示し、さらに実物を象に踏ませて「象が踏んでも壊れない」と謳ったテレビCMが1967年に放送されると、500万個を販売するヒット商品となった。このCMに対しては、「誇大宣伝ではないか」という指摘が国会議員から上がり、その議員に対して実物を100個持ち込んで金槌で叩かせ、丈夫さを認めてもらったという。
象がふんでも壊れないが、人間が踏むと壊れる?
当時の子どもたちの間ではこのような↑事がよく言われていました。
今もかもしれませんが。
TV-CMの象が踏むシーンはやらせではなく実際のものだったそうですが、これに疑問を持った全国の子どもたちは「本当に壊れないのか?」の実験をしたのです。
もちろん象に踏ませるという事は出来ませんが、多くは屋上から落としたり強く踏みつけたりしていました。
屋上から落とすくらいでは壊れる事はなかったようですが、勢いよく踏みつけると割れることがあったようです。
私は割れる場面を見た記憶がないのですが、あちこちで「象は大丈夫でも人だと壊れる」という話しが蔓延していました。
私が大人になってからですが、色々と調べていくとこの「人だと壊れることがある」のは事実だったようで、想像どおり小さな一点に衝撃が集中すると壊れる事がある、という事でした。
考えてみれば当然です。
象だと壊れないのは象の足の裏は筆入れに対して十分に大きな面だからエネルギーが分散されるのです。
しかしかかとなどで小さな一点にエネルギーを集中させれば非常に強いポリカーボネートでも許容強度を超える事も十分にあり得るからです。
分かりやすい話しとして、北海道では冬に雪が積もるだけでなく道路に積もった雪が上からどんどん圧縮されて、かつ-10度以下とかの低温でカチカチ・ツルツルの氷になります。
歩く時もスケートリンクの上を歩くような状況になり、転ぶ人も続出し車も4WDであってもコントロールを失い恐ろしい目にあいます。
この氷を砕く必要がありますが、ハンマーを力任せに振り下ろしても表面に傷が付くだけでほとんど何も効果がありません。
しかしつるはしを振り下ろすといとも簡単に氷が砕けます。
つまり狭い一点にエネルギーを集中させて氷を割っているからです。
これらと同じことを子どもたちはアーム筆入に行ったという事です。
これではサンスター文具様の担当者もたまったものではありませんね。
筆入れに対して狭い部位に衝撃を与えるなんて使われ方あり得ません。
でもこの事実がアーム筆入の評価、売り上げを下げる要因にはなっていないと思います。
受け継がれていくアーム筆入
先述のように2021年現在でもこの筆入れは入手出来ます。
Amazonでも売られています。
初期の頃のアーム筆入をご存知の方は「あれ?こんなにかっこよくなったの?」と驚くかもしれません。
でもポリカーボネートで「象がふんでもこわれない」というコンセプトは受け継がれています。
知らない方も一度サンスター文具様のサイトを覗いてみて、高価なものではありませんので気になったら買っても良いのではないでしょうか?
日本の高度経済成長期、そしてサンスター文具様のアイディアと開発力の一端を見ることが出来るかもしれません。
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私は1959年1月生まれ、目黒区の生まれ育ちです。サンスター、アーム筆入れ!富士電気の四本足の白黒TVのCMを見て、欲しくて堪らなくなりました!良く親が買ってくれたと思います。実は私はサンスターでは、スパイ手帳の方が感慨深いです!溶ける紙!と云う見た目は普通の紙なのに水に付けると溶けて無くなってしまうのです!子供心としては、本当に溶けるのか?試したくて堪らない!だけど溶けて無くなると壮絶な喪失感に襲われると云う子供向けの商品なのに、矛盾に満ちた凄い手帳だったのです!
貧乏なのに買って貰えたアーム筆入れ様
こんにちは。コメントありがとうございます。
TV-CMと言っても当時は白黒しかありませんでしたね。
それでもあの興奮は十分に伝わっていました。
スパイ手帳、私も何冊も買いましたし当時の男の子の間では殆ど皆持っていましたね。
スパイ手帳はまず溶ける紙から無くなって行き、他の物はそれほど消費がありませんでした。
いつも友人と「溶ける紙だけ追加用を売って欲しいね」と話していました。
あの紙は本当に魅了されました。もちろん手帳自体もですが。
なおスパイ手帳に関しても当サイトには記事がございますので是非ご覧下さい。
またおいで下さいね。
↓↓↓
男の子の憧れかつ必須のスパイ手帳
スパイ手帳は昭和42年前後の商品だったと思うのですが、価格は恐らく100円から150円前後かな?この当時の100円は現在とは信じられない程価値が違うので、現在ならば、いまだに有難いデフレが続くこの国ですが、最低でも6倍で600円です!文房具屋で買ったスパイ手帳が600円!一度手にしたら無くせない!友達に見せびらかしたい気持ちを必死に抑えながら、さてどう使って遊ぼうかっ!子供スパイには悩ましい大問題だったのです?
以下はご訪問者様の「貧乏なのに買って貰えたアーム筆入れ様」より訂正のコメントです。
訂正を入れて頂きありがとうございます。
(管理人)
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昭和42年頃の100円が、現在の600円に相当する?これは有り得ません!今ふと思い出したのですが、小2の時、近所の悪ガキ連中と詰まらない賭けをして、3人に対して一人30円合計90円を支払った事があったのです!ということは、精精3倍の現在の貨幣価値に直すと300円?スパイ手帳が一冊現在ならば300円。子供のお小遣いを考えると妥当かな?因みにですが、私は3人に対して、1人頭30円ずつ支払いましたが、詳しい理由は分かりませんが、1人の奴が30円を私に返してくれました!一番まともそうな奴でした!やはり不良、ヤクザな輩とは関わってはいけない!と云う事を学んだ小2の私なのでした?
「ゾウが踏んでも壊れない」小1のクラスメートの筆箱を踏んで壊しました。
ほかの連中が踏んでもつぶれないんで、自分も軽く(だと思う)踏んだんですが…。
親にも言えなかったし、コマーシャルは嘘つき!だと思い、しばらく信用しなくなりました。
・・・まぁ自分も悪いんですが…はじめっち
今考えたら、子どもが踏んだり乗ったら壊れるってのはわかるんすが…。
(硬いけど粘りのないものは、ある一点に許容以上の力がかかると分散せずに…)
・・・あの時正直に話せば踏んだ人間も踏ませた人間も両成敗だったはずっすが…ゆたか
あたいはむずかしいことはよくわかんないけんども、
あれは子ども仕様でなくって、おとなの仕事仕様みたいなものなのだ。
子ども向けのCМでなくって、社会人が(特に設計図関係の人用かもなのだ)が目を向ける
宣伝だったらよかったような気もするのだ。
・・・ちっさい定規やコンパスが入るともっと実用的だったかもなのだつるみんビックサイズになるけどもさ!
中身を守るって点でぇ、一時期「色鉛筆」を入れて輪ゴムで止めて持ち歩いてたですぅ…。
・・・もちろん色鉛筆にはキャップで筆箱の周りは薄いスポンジ貼ってましたぁ…みならいかのん
4あほ 様
コメントありがとうございます。
皆さんやはり筆入れには様々な思い出がありますね。
幼少期の身近なアイテムでしたから。
当時でさえ「本当に壊れないのか?」という疑問から無理やり壊したとかはありましたが、多分現在及び今後はあのようなキャッチフレーズの製品は出てこないと思います。
もちろん堅牢を誇示する製品は出ても「踏んでも落としても壊れない」とかのフレーズはSNS,特にYouTuberの格好のネタにされるからです。
YouTubeの「踊ってみた」、「歌ってみた」に続く「壊してみた」というジャンルですね。
でもあの筆入れほど印象的なフレーズで売ったものはなかったですね。
象までいかなくて「猫が乗っても壊れない」くらいは良いのではと思ったりもします。