昭和の古いアパート
古いアパートは今でも生きている
古いアパート、というとどんなものを思い浮かべるでしょうか?
木造?プレハブ?昭和時代に建てられたものの総称? 確かにそのとおりです。
というかそれ以外言いようが無いとも言えます。
近年はアパートに限らず多くの建物は規格化されていて、外壁パネルや内装などは工場で大量生産されて、それを組合わせて仕上げるという形式になっています。
これにより非常に安く、かつ高品質の建物を供給することが出来るのです。
個性がない、とも言えるかもしれませんが、安く大量になどの需要を満たすには今のところ最適解と言えるのではないでしょうか?
しかし本記事で取り上げる「古いアパート」とはそんな現代風とは全く無縁の一品物ばかり、でも家賃は爆安!という物件のご紹介です。
注:物件ご紹介と言っても本記事、弊サイトが実際に不動産のご紹介・仲介をするわけではございません。
昭和の古いアパートは想像を絶する物件・構造ばかり!
例えば以下のようなアパート、住んだことはなくても見た事のある人は多いことでしょう。
テレビドラマでもよく使われたりしますね。
平屋や1軒屋タイプもありますが、2階建てが多いように感じます。
私は実は本記事で取り上げるような古いアパートに住んだことは1度もありません。
単に「古い建物」には何度も住んでいます。
ではなぜ本記事を書こうと思ったかと言うと、街中を歩いている時、テレビで住宅街が写った時に叔母がそのような昭和の古いアパートに住んでいた事を思い出したからです。
その時私は小学校低学年で、叔母も結婚前で一人暮らしの時でした。
場所は東京都杉並区の下井草でした。その叔母も既に他界しており相当前の話しですが、鮮明にアパートの事を覚えています。
言い換えると幼少の私にとってかなり強烈に感じたのだと思います。
上記の写真ですが、私に言わせれば「本記事で取り上げる古い分類には入らない」とまず申し上げておきます。
本記事で取り上げる昭和の古いアパートとは以下のようなものと考えています。叔母が住んでいたアパートそのものとも言える内容です。
●2階建ての木造
●廊下には各部屋のドアがずらっと並んでいて、静かに歩くと各部屋からテレビの音や会話の声が普通に漏れて聞こえる。
つまり生活音には十分な配慮が必要。いびきや歯ぎしりだって聞こえてしまう。
また廊下の突き当りに共同トイレがあるのが普通。廊下の写真では以下↓が一番イメージに合うと思います。
●玄関の外のドアを開けるといきなり下駄箱と階段があり、非常に狭いにもかかわらず入居者全員で使う共同玄関である。
→下駄箱も1世帯(部屋)でせいぜい2足分くらいしか入らず、長靴やブーツなど背の高い靴は収納不可。
しかも各下駄箱に鍵はおろか蓋さえ付いていないものも多く、盗難されないように脱いだ靴は自分の部屋まで持ち帰った。
●部屋は四畳半和室が標準。6畳間もあるがむしろこれは「デラックスタイプ」
物件によっては3畳一間というものもあり、布団を一つ敷いたらそれで終わり、というレベル。
↓布団を敷くと実際には遥かに狭く、TV台や机(ちゃぶ台)がある場合は寝る時も工夫が必要だったと思います。
●トイレは和式共同が1ヶ所
→部屋数の多いアパートだとトイレは2ヶ所以上あったところも。思い切り古くてトイレが1階の構造だと「ボットン便所」も多々あった。
ボットン便所とはこういうものです↓ 記事もぜひご覧下さい。
●風呂やシャワールームなどは皆無
●各部屋の扉を開けるといきなり左右いずれかに調理用のシンクやガスコンロを置く台がある。
→廊下に共同の洗面所がある物件もあるが、そのようなものがない物件では調理用のシンクが洗面所を兼ねる。
ガスコンロ用の台は小さなものを一つやっと置ける大きさ。この場合のコンロは以下のような物が多かったと思います。
見た事のある方も意外に多いのでは、と思います。
注意:ガスコンロは各自で用意します。
●エアコンはないばかりか、最初から取付を考慮されていない。
→今ではワンルームの安いアパートでも最初からエアコンが付いている物件が多いですが、当時の古いアパートはエアコンが無いだけでなくて、後付けさえ考慮されていませんでした。
壁掛け型(最も普及しているタイプ)エアコンを取付けるには壁に室外機を繋ぐダクトが必要ですが、この手のアパートはそんな穴は開いていないし、古すぎる木造アパートでは大家さんの許可以前に物理的に穴を開けるのが不可能と思われます。
となると以下の写真のように窓に取り付けるタイプならば設置可能となります。
しかも窓用は室外機の機能が一体になっているので別途ホースで室外機を繋ぐ必要はありません。
しかしエアコンの荷重に窓枠が耐えられるのか? 工事に対して大家さんから許可が出るのか?或いは物理的に工事が可能なのか?など多くの問題をクリアする必要があると思われます。
↓最近の窓用エアコンの一例。窓を少しだけ開けてその部分に専用パネルと共に取り付ける↓
工事が出来そうだということになっても、もう一つクリアしなければならない問題があります。
それはブレーカーのアンペア数です。
一般アパート(一軒家も)のブレーカーは20~30Aが殆どで、それ以上であれば10A刻みで60Aまで契約変更が来ます。
(60A以上の例えば100Aも可能。但し電線やブレーカーの交換工事が必要となる。)
4人家族の3DKくらいならば、エアコンと電子レンジ、またはドライヤーなどを同時に使わなければ20Aでも問題ありませんし、30Aであればそこそこ同時に使ってもブレーカーは滅多に落ちないことでしょう。
しかし一人暮らしで、かつエアコンを使わない事が想定されている四畳半~六畳の古い木造アパートだと10Aというブレーカーが多いようです。
小さい窓枠用のエアコンの消費電力は調べると500~800Wくらいで、10A契約でも使えそうです。
しかし電子レンジ(500W機で消費電力は1100~1300W)やドライヤー(最大で1200Wくらい)などを使うことは出来ません。
またエアコン以外に電子レンジなど電気大食い家電を使わなくても、テレビや冷蔵庫、パソコンなど「これならば大丈夫だろう」と思っている電気製品も、塵も積もれば山となりますので意外に高頻度でブレーカーが落ちることもあるかもしれません。
恐らく20A契約への変更は大家さんからも許可が出ると思うし、物理的にも変更は可能と思われます。
しかし電気代の基本料金が約2倍にアップします。
(東京電力の例だと2023年6月1日以降は10Aで295.24円が20Aだと590.48円になります。)
それと意外に知られていないのは窓用エアコンは消費電力は一見少ないように見えて電気代が高くつくのです。
電気大食いの壁掛けエアコンは消費電力が少なくなるように細かく自動調整されますが、窓用エアコンの多くはそのような機能は無いようです。
分かり易く言うと壁掛け用は常に使う電気を弱めたり強めたりして調整するのに対して、窓用エアコンは常にフルパワー出しっぱなし、ということです。
これらからとてつもなく古い木造アパートに住むには、安い家賃とは引き換えに想定外の出費を考慮する必要があります。
お風呂が無いので、銭湯を探して使う事になりますが、毎日行っていたらとんでもない値段になりますね。
かと言って特に夏場は毎日入りたいし・・・と気持ちは複雑になると思います。
トイレだって共用、少ない世帯のアパートだとたった1ヶ所、入りたい時に入れないし、汚くて臭いかもしれない、それに水洗でも和式かもしれない、1階に設置されたトイレだとボットン便所かもしれない・・・
近年は分かりませんが、叔母が暮らしていた時代などはトイレや廊下、玄関は住民が順番に掃除するとかのルールもあったようです。
などなどこのようなアパートに住むには相当な覚悟が要ります。
近年若者を中心に本記事のような古い木造アパートを好んで契約する人も増えて来ていると聞きます。
理由は様々あれど「経験したことのない不思議な世界、ノスタルジックな部屋で暮らしてみたい」という人が多くいるようです。
このようなアパートは一人で一つの部屋で暮らせる、つまりルームシェアでは無くプライベートもある、という考えがあるようですが、プライベートに関しては相当微妙な部分が多いのが事実です。
まず各部屋のドアを開ければワンクッションもなくいきなりキッチンや寝室になりますし、壁も非常に薄い木の板1枚、トイレも共用、後述する玄関などは完全に学生寮のような状態だからです。
そして風呂も無くクーラーも付けられるかどうか分からない部屋なので近年のワンルームマンションよりお金が意外に掛かります。だから家賃や生活費を節約するためにこのような古いアパートに住むというのは間違っています。
仮に近年の新しいワンルームの方が古い木造アパートよりも家賃が2万くらい高くても、普段の生活費や快適さでは2万円高い新しい時代のワンルームの方がはるかにお得になるはずです。
【参考】一軒屋の木造アパート
昭和の古いアパートでも一軒家タイプもありますので、簡単にご紹介しておきます。
外観としては以下のようなものです。
東京都内にもこのような↑外観の一軒家の古いアパートがたくさんありました。
というか今でも相当数残存し、多くの人が暮らしています。
上記写真は側面に板が多数打ち付けられていますが、フリー素材サイトからの資料ですので人が生活しているのか、廃屋になったのかは分かりません。でもまだ人が生活している建物でも極めて古い建物で、歪が生じている場合などは窓の視界が悪くなるのを承知で補強材を打ち付けることもあるようです。
玄関ドアは何も施されていないように見えるし、電線も繋がっているのでまだ人が住んでいる可能性が高いです。
本記事で言及している2階建てのアパートの入口は上記写真と似たようなものです。
普通の大きさのドアが一つだけあって、開けると下駄箱といきなりの階段が現れる、というものですね。
それと建物の左側面、雨どいの左側にもう一本煙突のようなパイプが伸びています。
これは何かというと「トイレの換気用」パイプです。古いトイレの多くはボットン便所でしたので、便器の穴からはもろに汚物の匂いが上がって来ます。
その匂いを少しでも外に逃がすためにこのような煙突が付いていたのです。つまり写真の家はほぼ間違いなくボットン便所のはずです。
写真では分かりにくいですが、多くのこの煙突の先端には風でくるくる回る小さな風車のような物が付いていました。
地上では大した風が無くても、家の屋根付近まで高さが上がれば地上よりは風が吹く可能性が高くなるので、その風を利用して風車のような部品を回してより効率的に換気を行おうというものでした。
恐らくこの換気システムは戦前からあると思われますが、簡単な仕組みで実にうまく考えられたと思います。
古い木造アパートの玄関と1階は?
実はこの手のアパートの最大の特徴は玄関にあり、そして2階建ての1階部分は意外にミステリーじみていたりするのです。
古くても殆どのアパートは玄関は各戸に1つづつ、こんなこと当たり前ですが、「当たり前でない」時代もあったのです。
それらの写真をネットで探したのですが、私の叔母が住んでいたようなものは全く発見出来ませんでした。
まるで古い学生寮(社員独身寮)のような感じでした。写真が無いので記憶の範囲で下手な絵を書いてみました。
雰囲気は伝わるかと思います↓
(これはクリックで拡大し別タブ/ページで開きます。)
何世帯入っていようと玄関はたった一つです。
木の古いドアを開けると4~6足も置けばいっぱいになってしまうほどの狭い靴を履き替えるスペースがあり、左側には下駄箱、そしていきなり2階に上がる急な階段があります。
この下駄箱は先述したように、多くは蓋も無く、鍵も無くというものが多かったのです。だから出来れば下駄箱に靴を入れずに自分の部屋に持ち帰ることが望ましいのです。
また基本的にスリッパなどはアパート側は用意してくれませんので、自分で用意するか裸足(靴下を履いて)で自分の部屋に向かう事になります。
各部屋まで土足でOKというところもありましたが、叔母が住んでいたアパート、そして殆どは靴を脱いで上がるというタイプだったと思います。アパートの中が泥だらけになってしまいますからね。
一般的に言ってこの階段は非常に急で、滑り止めが付いてない所が殆どだったので、酔っぱらっての帰宅時は非常に危険だったかもしれません。
さてミステリー溢れる?1階ですが、多くは大家さんのご自宅、一部アパートの貸し部屋でした。
大家さんの家の玄関は別にあるのが普通ですが、この階段の右側直ぐにドアがあって、そこが大家さんのご自宅だったりする物件もありました。
また階段の右側に狭い廊下があって、その一番奥が大家さんのご自宅の玄関ドア、この廊下の左右に1階のアパートの部屋があったりしました。
でも叔母が住んでいたアパートは玄関ドアを開けるといきなり階段だけで、廊下やドアが無かったので恐らく1階は大家さんのご自宅だけだったと思います。
本記事で取り上げたようなアパートはまだ全国各地に残っているはずで、多くの人の生活があります。
そして過去数十年にも及ぶ人々の人生の一場面を作って来ました。
ワンルームでも近年は安価で快適な物件が多く、古い木造アパートの老朽化、大家さんのご高齢化の問題などを考えると解体されるアパートが増えて行くのも事実です。
しかし本記事で「こういうアパートもある」、「過去にはこういうアパートが全国にあった」、「人々の生活を支えて来た」ということを知って頂ければ幸いです。
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むかし、カセットコンロがなかったころ、¥3200で一番小さいボンベ買って、
マッチで点火する写真のコンロを使っていました。共同アパートなんで、
流し(もち温水なし)は一か所、「寝室兼居間兼加熱調理場」(要するに部屋一つ)で、
おかずだけ作って(みそ汁はストーブで)自炊してました(あたりまえだけど…)。
・・・ご飯はちゃんと電気だったよはじめっち保温できなかったけど…冷蔵庫もなかったけど…釧路だったから…
「一軒家のアパート」は、寒川の県営住宅とか、藤沢にも少し残ってるけど、もうほとんどないかもっす(あるけど)。
今は古くなったっすけど、一軒家のアパートは子供のころ飯場に住んでた時には、
すごくいいなぁ、お金持ちみたいになりたいって思ったりしたものっす。
・・・炊飯器や冷蔵庫やテレビ・洗濯機を同時に使うと「ヒューズ」が飛ぶから針金とか…今考えたらアブねェっすゆたか
2じじぃが言ってる、これがいわゆる「神田川」の世界なんですねぇ~…。
・・・「神田川」を「しんだがわ」と読んで怒られましたぁ…みならいかのん
あたいも古いアパートに住んだことはあったけんども、廊下側にガラス窓があるのには、さすがに居住したことはなかったのだ。
っていうか、基本あくまで一人住まいなのが原則で、夫婦生活…とか考えられないのだ。
・・・「夫婦の営み」から「子育て」とかは考えられないのだつるみん
4あほ様
こんにちは。コメントありがとうございます。
皆様もけっこう強烈なところにお住まいだったのですね。
流しが一か所、そう言うところありましたね。住んだことはありませんが実際に見た記憶もあります。
釧路だったから・・・ 本記事の執筆のきっかけとなった叔母の家は東京都杉並区でした。
私はこのようなアパートに住んだことはありませんが、幼少期を過ごした練馬区の上石神井などは
このようは集合住宅や一軒家の長屋風の建物がたくさんあって、同級生も多く住んでいました。
そして懐かしさのあまりストリートビューを見ると、未だに私が幼少期に見たこれらの
アパートが残っていて人が住んでいるのには驚きました。
数十年経過しても取壊されず、人の生活があるのです。東京23区内でですよ!
恐らく探せば新宿辺りはもちろん、中央区や港区にも残っていると思います。
神田川の世界、そうなんですが私のイメージでは神田川の曲から連想される
アパートよりももっと強烈な感じもします。
住みたいとは思いませんが「見学」と1泊程度の体験宿泊はしてみたいかな、とは思います。
でもボットン便所は嫌ですが。